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戦国時代の主力武器


戦国時代主力武器として使われたのは何だったのでしょうか。鉄板さえ貫通する弓でしょうか。それとも時代を変えた鉄砲でしょうか。一つずつ見ていきましょう。

戦国時代の主力武器


------------戦国時代初期の主力武器------------

いえ、違います。戦国時代の主力兵器は槍です。槍を使うのがトレンディであり、一番槍という言葉をはじめとして、槍に関わる言葉が多く産出されるほどでした。

それでは、なぜ槍が主力武器であったかを説明しましょう。まず、主力武器の定義について。主力武器とは、そもそもなんなのか。私が考えるに、主力武器とはその軍隊でもっとも使用率と使用頻度が高いものと思われます。

槍の装備率は資料を見るにかなり高く、前回引っ張り出した編成比率資料によると武田家58%、上杉家65%、北条家37%といったところです。弓も鉄砲も戦国初期では全体比率で見て合計しても槍に敵いません。では、なぜ槍の使用率が高いのでしょうか。

そもそも、中世の戦争は比較的に少人数で行われました。当時、馬に乗ったり弓を操ったりすることは特殊技能であり、長い訓練を必要としました。訓練していない雑兵には弓も馬も使えないので矛や長刀といった長兵器(棒の先に金属製の武器がついているもの)を与えました。

しかし、そんな適当な武器では騎兵に太刀打ちできませんし、錬度も低いのでカス扱い。おかげで中世の歩兵は弱いことが多く、騎兵が主力で一部の弓兵が騎兵を圧倒する機会がある以外は、歩兵は数で圧倒していなければ騎兵に勝てないのが普通でした。

お隣の中国では不足する弓兵を何とかするために機械仕掛けの銃に似た弓である弩(ど、おおゆみ)を使用して歩兵の大量動員と戦闘能力の維持を行っていました。日本では古代では使用していたようですが、気がつくと使用されなくなっていたそうです。

騎馬弓兵である武士による戦闘が多発するようになり、歩兵の価値が低下したのがその原因の一つでした。平地戦において騎兵は無敵の存在であり、弓は武士が使うもので歩兵の使用は少なく、歩兵しか使えない弩が衰退したという説も存在しています。

弱い歩兵には矛だの槍だのを適当に与えて人海戦術が基本でした。優秀な者は弓も使えたでしょうが、数は少なかったでしょう。

さて、話を戻します。兵士を大量動員をするには無理矢理引っ張ってきた能力の無い連中が一級の戦力として動けるようにする必要性がありました。太平記の時代である南北朝の頃も大動員をおこなっていましたが、大半が対騎兵能力の低い雑兵連中がいっぱいいた状態にすぎません。

大陸では弩という武器が雑兵を一級戦力に引き上げましたが、日本ではそれが出来なかったので、弓兵を頑張って増やすくらいしか選択肢がなかったのです。

弓を持たない歩兵が騎兵に対抗するのは困難でした。しかし、この状況を覆す兵器が登場します。それが『長柄槍』です。

軍事史において騎兵を歩兵が封じ込めるには二通りの選択肢が存在します。一つは、騎兵に近づかれる前に遠距離攻撃で騎兵を撃破すること。もう一つが、騎兵から距離を取ることです。

これを可能とするのが長柄槍です。4〜6.5メートルの長さを持つこの槍は、その長さから騎兵から距離をとって戦うことが出来ます。特に、この長柄槍を複数の雑兵に持たせ、穂先を揃えて防壁をつくりだす『槍ぶすま』という戦術がこの長柄槍の真骨頂です。

槍の壁の前には騎兵は突撃することが出来ず、突撃しても、しなる槍に馬ごと吹き飛ばされてしまいます。この槍ぶすまを正面から殴り合いで崩すには、槍ぶすまで対抗する以外に手ごろな手段は他にありません。

ちなみに、古代や中世でも槍ふすまは存在していました。しかし、せいぜいが3メートル前後の長さの槍や矛しかなかったため、騎兵の突撃には脆弱だったのです。これが解決されるには長柄槍の登場が必要不可欠でした。西洋でもパイクという似た武器によって歩兵の強化が図られています。

騎兵に対抗する力を雑兵に与える槍、これだけの能力を持ちながら槍の訓練は弓に訓練に比べてはるかに容易です。この長柄槍の存在があってこそ大量動員された雑兵の戦闘能力の増大。そして、最前線の戦いに耐えうる兵士の確保が可能となったわけなのです。

ところが、実際に主力でありながら、敵の殺傷数はそこまで多くありませんでいた。戦場における死傷者の数は弓による傷が最も多く、槍はそれ以下です。槍よりも少ない弓の方が敵を多く殺しているのは興味深い話です。だが、これは実際の戦闘を少し勉強すれば納得の話となるでしょう。

実際の戦いにおいて、人間はそこまで多く死にはしませんでした。戦いは敵を撤退させることが目的であり、実際の死傷者は、片方が逃げるのに対し、もう片方が追撃する。その時に最も多くの死者が出ます。

みんな死にたいわけはないので、不利とわかったら命惜しさにみな逃げ出します。有名な大会戦でも死傷者が全体の1割、2割とかいうことはざらです。史上最も有名な殲滅戦と言われたカンネー会戦すら8割強、狙っての全滅はよほどの好条件に恵まれない限りマジ不可能です。

そのために、1人残らず死ぬような戦いをして逃亡者を出さないとそれだけで伝説になります。300人が1人も逃げ出さず全滅したテルモピュライの戦い。数倍のフランス兵相手に逃げ出さずに戦って死んだスイス傭兵。そして、高橋紹運の指揮下、763名が全員討ち死にしてまで時間稼ぎをした岩屋城の戦いなどが有名でしょうか。

だから戦いは自然、陣形の崩しあいになります。敵を動揺させて撤退させればいいので敵を脅すことが重要となります。敵を動揺させる言葉戦と呼ばれる戦いが行われたなど語る資料さえあります。

敵の士気を砕くにはまず、遠距離からの攻撃で敵の精神を揺さぶります。そして、長柄部隊を投入し、さらに動揺を広げ、敵が崩れたら追撃です。

銃と銃剣が歩兵の武器であったナポレオン戦争時代の戦いでも、銃撃で敵を動揺させ、それでほとんど勝負を決めるそうです。そして、トドメに銃剣突撃。これで敵がビビって撤退したそうです。

この現象が起こるのは、人間が生理的に鋭利な刃物で刺し貫かれることを忌避するからだそうです。ここらへんはもはや心理学の領域ですので、『人殺しの心理学』とかを読んでみるといいかもしれません。 オススメで紹介しているのでごらんになってください。

その本によると人間は本来同族である人間を殺すことを避けるらしく、それをするには超えなければならない心理的障壁がいくつかあるそうです。心理障壁のなかで、自分が殺したわけじゃないとか思い込めることは重要で、これが弓の殺傷力の高さを説明します。

遠距離からの攻撃なら自分が殺したわけじゃなく、別の誰かがやったと思い込めるので全力で攻撃しやすいです。それに比べて槍は接近戦なので、自分が殺したことがわかるし、刺した相手の息遣いなどが手に伝わってくるので殺しにくいです。結果、弓は槍より相手を殺しやすい武器となるのです。

さらに距離があると相手の顔が見えにくくなります。相手の顔を見ながら人間を殺すのは難しいらしく、顔が見える至近距離での殺害は難しいです。逆を言えば遠くなら顔が見にくいから殺しやすくなるわけで。

実際、立てこもり事件などで人質の顔に覆面をされた場合、犯人が人質を殺してしまう可能性が高くなるそうです。相手を人間と考えなければ殺しやすくなる、だから顔を隠したりすると殺しやすくなるのです。

それに加え、人間は自分に背中を向けて逃げる相手を殺しやすいと言う性質を持ちます。これは人間が狩猟生物であったことに由来するらしく、顔も見えないので人間を殺す抵抗が減ります。撤退する敵を追撃する時に最も被害が出るのはこのあたりが原因かもしれません。

ちなみに雑兵物語によると、日本での長柄槍の使い方はちょっと特殊だったそうです。長槍は突くものではなく叩くもの、それがその本の主張です。全員で槍を振り上げ、合図と共に全力で振り下ろしていたそうです。

これで槍部隊同士が長柄槍でどつきあう光景が戦場では一般的となり、これに耐え切れなくなった方が崩れたようです。屈強な家には必ず精強な槍部隊が存在したという話です。

さて、ここで注目すべきが刺突ではなく打撃を行っていることです。相手を殺さずにすむかもしれないと思い込める「どつき合い」なら、誰もが全力でその力を発揮できたでしょう。相手が崩れたら背中を見せてるので簡単に槍で突き殺せる、実に合理的ですね。

以上の理由から実際の殺害数にかかわらず、長柄槍は主力武器として戦国時代に大流行しました。

実際戦っている側から見れば、敵をいっぱい殺してくれても、あまり敵を撤退させてくれない弓より、敵を多く殺さなくても突っこめば敵がびびって逃げてくれて追撃時に大損害を与えてくれる槍が主力と考えるのも無理はないかもしれません。



------------戦国時代後期の主力武器------------

戦国時代における革命的な武器としては火縄銃があげられます。弓に比べ、鉄砲は大きな利点を多く備えていました。装甲の貫通力、爆音による威嚇効果などです。人間は本能的に巨大な音を恐れます。大きな音は強い存在のみが発生できるものだからです。

しかし、主力武器となるにはそれだけでは意味がありません。それなら、大砲のみが存在すれば事足りることになるからです。では、鉄砲の隠された利点とは何でしょうか。正解はすでに何度も述べている通り、訓練の容易性です。

鉄砲は使いこなすための訓練が少なくて済みます。曲線軌道で発射される弓に対し、鉄砲は直線軌道で弾丸を飛ばします。つまり、銃口を向けた方に弾丸が飛ぶのです。弓から放たれる矢は放物線を描くので、落下点を予測して角度と力を調節する必要があります。

つまり、目標命中のための訓練が圧倒的に楽なんですね。さらに、火薬を使うという点が重要です。訓練が容易な兵器としては弩が昔から存在していました。機械仕掛けの矢で、鉄砲と同じく訓練が少なくてすむ直線軌道で発射される兵器でした。

しかし、弦を引くのに強い力が必要です。屈強な成人男性でなければ使いこなすことは出来なかったでしょう。これが弩の限界でした。爆音がないのもダメな理由となります。

鉄砲は違いました。火薬の爆発で威力を補えるので、女子供が扱っても大丈夫で、使用者に老若を問いません。九州戦役においても、女子供老人しか残されていない城が島津の侵攻軍を何日も防ぎ続けたという事実があります。

屈強な成人男性がいなくても、鉄砲は戦う力を与えることができたのです。少ない訓練、そこまで必要とされない筋力、何もかもが圧倒的でした。加えて響き渡る爆音が、何もかもをひっくり返してしまいます。



------------戦国以降の主力武器------------

戦国時代以降、日本では戦争がなくなります。代わりにヨーロッパでは戦争が続いており、新たな兵器が開発されます。その結果、銃と槍が融合します。他の記事ですでに紹介した銃剣とマスケット銃ですね。

これが登場するまで、槍は戦場から駆逐されることはありませんでした。槍が主力の時代は鉄砲が槍に取って代わるまで続きます。鉄砲に剣を取り付けた銃剣で槍の代わりができるようになると、槍が戦場で活躍する機会は完全に消え去ります。




戦史からみれば長柄槍による陣形が活躍したのはごく短い時期です。その短い時期、銃と槍が混ざって使われた過渡期。これこそ、戦国の魅力の一つであると私は考えています。


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