今回は三国志について語ろうと思います。
三国志とは中国における後漢末期から三国時代、そして晋による統一までを描いた史実です。
日本で楽しまれている歴史物の中でも最大の人気を誇るジャンルですので、多くの方が楽しめることでしょう。
まずは、この時代のデータから表示していきます。
舞台:中国
時代区分:古代
戦記タイプ:群雄割拠からの統一もの
兵種関係:歩兵=主力兵科 騎兵=補助兵科
特記事項:主人公とライバルの熱い関係、義兄弟の友情
三国時代は四百年続いた漢帝国が崩壊を始めるところから物語が始まります。
失政で国が乱れているところに『黄巾の乱』と呼ばれる宗教反乱が勃発。 頭に黄色い布を巻きつけた黄巾賊が暴れ周り、中央政府は独力でこれを撃破できない。
そこで、地方の豪族たちを頼ってこれを解決するのですが、それが豪族という地方勢力が暴れる原因となります。
その後、漢帝国は存在だけのものとなり、群雄割拠した地方勢力が中国統一のために内乱を引き起こします。
その中で、頭角を現す人物が二人登場します。 『劉備』と『曹操』です。 彼らは私兵集団を率いて各地を転戦。
その結果王となり、それぞれが後に鼎立する三国の王になります。
あと一人、『孫権』がもう一国の王になるのですが、この国はマイナーなので、ここではなかった事にします。
劉備は漢皇帝の血縁を自称する地方のヤクザの親分であり、その弟分に『関羽』や『張飛』という豪傑がいました。
桃園で義兄弟の誓いを立てたこの『桃園三兄弟』は、崩壊する漢帝国を救うために義勇軍を創設。 黄巾の乱で活躍し、次第に勢力を盛り上げていきます。
しかし彼らは正直、雑魚勢力でした。
私兵集団を率いる少数勢力でしかないため、いつも誰かの部下として働き転戦を繰り返す毎日。 そして、上司が劣勢に陥るとすぐに見捨てて次の上司を探します。
わかっているだけでも6人の君主の部下となり、そのすべてを見捨てて生き残り続けるしぶとさを見せ付けます。
しかし、最後は中国の辺境の国を滅ぼし自らの王国を創設。 漢皇帝の血縁を語っていただけの平民は王となり、後に皇帝を名乗る事になるのです。
対し、劉備のライバル的存在である曹操はその戦上手から劉備とは比べ物にならない人口を誇る王国を手に入れます。
親が金持ちであったために早い段階から五千に近い兵を掌握していたことも大きな原因です。
戦で勝利を重ねながら黄巾賊の残党を自分の領民にした事から、彼の躍進ははじまります。三倍の兵力を抱える親友、袁紹を撃破して北中国の覇者となり、北方遊牧民族を撃破して配下として軍を強化します。
中華最大勢力となった彼は中国統一を目指しますが、それは失敗します。
平地の多い北と違い、南東は川が多く強力な水軍がなければ攻略できません。 後に劉備の領地となる南西は山岳地帯であり、陸の孤島扱いされる僻地。
平地では無敵の曹操も、地形障害には勝てませんでした。
最終的に中国は北・南東・南西の三地域でがそれぞれ三国となります。
ここで劉備と曹操の関係を見ていきましょう。
圧倒的な力を持つ曹操は生涯勝率は八割を超え、その中には対劉備戦の成績が数多く含まれます。
三国志は多くの場合が劉備を主人公としているのですが、ライバルの方が圧倒的に強い状態です。
多くの三国志好きから劉備は戦下手と知られており、実際勝利より敗北が多く感じます。強いライバルと弱い主人公、これがこの物語を熱くする理由の一つとなります。
劉備は実際のところ、そこまで弱くはありません。
それなりに勝ち星をあげ、頼る勢力の長から常に重宝がられる存在でした。 ただし、対曹操戦だけは負けっぱなしで、連戦連敗を繰り広げます。
しかし、曹操がいないところでは曹操軍相手に幾度か勝利を収めているので、やはりそれなりには強かったのでしょう。
管理人が主人公とライバルに要求する要素の中で、これがあると嬉しいというものがあります。
それは、陣営の移動です。
最初は味方だった相手が敵になったり、敵だった相手が味方になるなどは実に熱い展開です。 そして、歴史上の人物でありながら、彼らはそれをやっています。
具体的に見ていきましょう。
劉備と曹操の関係は黄巾の乱を制圧する味方としてスタートします。 しかし、後の群雄割拠時に敵対。
ところが、自分が劣勢になると曹操の膝元に転がり込み曹操の部下になります。
が、これを裏切って曹操最大のライバル『袁紹』に寝返ります。これ以降、二人は二度と同じ陣営にいることはありません。
味方→敵→味方→敵、美味い具合に陣営移動をくり返し、二人の関係はより濃密に描かれます。
そして、圧倒的に強い曹操ですが、最後の最後でたった一度、劉備に敗れることになります。
自分より強いライバル相手の物語の中で、最後の一度だけ勝つという熱い展開は涙無しには見れません。
しかし、これ以上にもどかしくストイックな事実が追加されます。
それは、劉備にとってのライバルは曹操ですが、曹操にとってのライバルは劉備ではないことです。
彼にとって生涯のライバルは、治世の際には親友であった『袁紹』です。袁紹は漢帝国における貴種であり、黄巾の乱でも活躍した英雄。
さらに董卓という男が漢帝国を牛耳った際には反董卓連合を結成しその盟主となります。
この時点で歴史の主人公はどう考えても袁紹。 彼は北方で勢力を拡張し、中華最大の勢力となります。
袁紹と曹操の戦力比は三倍以上。 そして、この元親友同士は死命を決すべく戦いを繰り広げます。
歴史にしては出来すぎた設定です。
元親友と戦うことになり、半分以下の戦力しか持たない、身分の低かった男が勝利する。
ちなみに、三国時代において最も重要な戦いはこの二人の戦いであり、劉備はほとんど関係しません。
この時、劉備は袁紹の部下であり、ちょっと曹操軍と戦っただけですぐにどこかに逃げ去ってしまいます。
劉備にとってのライバルは曹操だが、曹操にとってのライバルは袁紹。 このアウト・オブ・眼中っぷりが、物語を楽しくさせるスパイスとなっているのです。
〜三国時代を軍事的に見てみる〜
さて、ここで少し検討してみたいのは、なぜ曹操が圧倒的な力を持っていたかです。
これには当時特有の理由があり、曹操が弱小勢力であったことに起因します。
当時、国は分割で統治されており、地方の有力者がそれぞれ兵力を握っていました。
そのため、国で一番偉い人間は彼らの盟主であるにすぎませんでした。
そこで、戦争をする際には彼らを子分として率いるだけで、自分の直轄兵としては扱えません。
そのため、自由に戦う事が出来ず、豪族連合がそれぞれ好き勝手に戦うという状況だったのです。
しかし、曹操の勢力は傭兵中心で全てが直轄兵。
吸収した黄巾賊の残党も自らの部下であり、その兵力を自由自在に扱えました。
指揮を一元化した曹操軍はその精強さもあいまって豪族連合的な他勢力を次々に撃破していきます。
さらに、曹操には強力な部隊が存在しました。 精強な遊牧民騎兵です。
当時は馬具は大して発達しておらず、鐙と呼ばれる足を固定するものが存在しませんでした。
そのため、馬は金持ちで訓練に多くの時間を費やせる貴族か軍閥の人間。
もしくは、馬に乗れなければ生きていけない遊牧民でなくては騎兵として活躍できません。
この遊牧騎兵を率いて各地を転戦し、この時代最強の名を欲しいままにした男がいました。『呂布』です。
遊牧民出身と言われる彼は配下の遊牧騎兵を率い、その精強さで中華にその名を轟かせました。
しかし、致命的な外交下手と戦場以外での多くのミスから最終的に曹操に敗北します。
そして、配下の遊牧騎兵は全て曹操の兵士となります。
優秀な歩兵、そして優れた遊牧騎兵。
これを手にした時、曹操は機動戦の名手としての己の価値を存分に発揮する事になりました。
その後、曹操は平地では無敵に近い存在となり、多くの戦いに勝利します。
しかし、それ以外の地形では敗北をすることも多く、水上戦と山岳戦では敗北を喫する事が多かったようです。
騎兵の機動力が使えないところでの、曹操の弱さは目に余るものがあります。
ちなみに曹操の黒星は勢力が弱小である頃に稼いだもの、遊牧民相手に敗北したもの、水上戦、山岳戦などがほとんど。
つまり、まともな兵力を手に入れた後は、漢民族相手に平地戦をやらかせばほぼ無敵だったわけです。
騎兵の強さ恐るべし。 と、言いたいところですが、実際この頃に騎兵は最強の存在ではありません。
それは先ほどの馬具の話に理由があります。
〜鐙の重要性〜
馬にまたがるだけで馬には乗れますが、不安定で戦う事は以上に難しい状態となります。
脚に力を入れて股ではさみこみ、その状態で体を固定しながら戦う必要があるからです。
遊牧民でない人間がこれを極めるのは非常な困難が付きまといます。
結果、遊牧民でない騎兵は弱小であり、遊牧民であっても対した力は出せません。
そこで騎兵の主装備は馬上で扱える短い弓でしたが、鎧が強化されるとなかなか致命傷が与えられません。
槍や剣で格闘戦もできますが、不安定な体勢なので騎兵突撃の威力を生かしきれません。
結果、この時代の主役は歩兵であり、騎兵はあくまで補助的な地位に存在しました。
しかし、古代の名将はいかにこの補助兵科を巧みに操るかで決したと言っても過言ではありません。
実際、体勢が不安定といっても高さの優位と馬の体重という破壊力は少ないものではありません。
そして、何よりも機動力が武器であり、敵の不利な位置に移動したり、弱点を突いたりと活躍の場はいくらでもあります。
曹操はこの騎兵の扱いがたくみでした。
さらに、馬は北方に多く生息するため、南方国家の保有する騎兵の数は限られます。
結果、北方を支配し遊牧民族を配下とした後の曹操に平地で勝てる存在はいませんでした。
しかし、曹操の死後に歩兵で騎兵を撃破する英雄が登場します。 諸葛孔明です。
彼は対騎兵戦に勝利できる軍隊を創設し、戦えば勝つ軍隊を作り上げます。
騎兵の機動力ではなく歩兵の防御力と射撃力で、騎兵を平地で撃破出来るようになったのです。
これと戦った司馬仲達は徹底的に戦わない事でこの軍を撤退に追い込みます。
遠征軍である孔明の軍が、長期間滞在できないという弱点を突いた戦術であったと言えます。
〜まとめ〜
この時代が人気である理由はいくつかあります。劉備と曹操というわかりやすい主人公とライバルが存在する事。
曹操を主人公として見た場合、袁紹と劉備という二人のライバル的存在がいる事。
そして、鎧を纏った戦士が活躍しやすい条件として、銃が存在しない世界である事。
異国の古代史であるため、中華風ファンタジーとして楽しめる事。数え上げればきりがないほど、この時代は魅力的です。
鐙がまだ存在していないため、画期的な軍事改革というものはありませんが、戦術面から見れば実に面白い時代である事も事実です。
特に内乱群雄割拠ものの作品なので、誰が天下を統一するかというサバイバルレースとしても楽しめると思います。
日本の戦国史と共に人気を誇る時代ですので、興味があるかたは是非この時代に関係する作品を読んで見てください。
最後に、この時代に関する作品をいくつか紹介することで終わりたいと思います。
マンガ
三国志 横山光輝
『劉備』が主人公の作品。三国志ファンなら必読の一作と言える。
蒼天航路 王欣太
主人公のライバルであり悪玉扱いされる『曹操』が主人公。きわめて熱い作品。
小説
三国志 吉川英治
日本における三国志ブームの火付け役、読みやすいかどうかは微妙。
三国志 北方謙三
つまらないわけがない北方版三国志、だまされたと思って読んでみた下さい。
以上の作品を紹介して、三国時代の解説を終わらせていただきます。
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