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火縄銃


日本史どころか世界史をそっくり塗り替えてしまった強力な兵器、それが火縄銃です。それまでの戦争が人間のや馬の筋力を基盤にしていたのに対し、その登場は筋力の数倍の威力の兵器を歩兵が使用できるようにしてしまいました。

火縄銃


その威力のすさまじさをJ(ジュール)という単位であらわすとしましょう。西洋のロングボウの威力が100ジュール、クロスボウの威力が200ジュールといった感じで強力なものほど数字が大きいです。

さて、火縄銃の威力はどのくらいでしょうか。なんと、数字が3000ジュールにまで跳ね上がります。文字通り、桁外れの威力ですね。火縄銃の登場で鎧が無用の長物となりはじめる理由がお分かりいただけるでしょう。

その上、火縄銃の真価は発射の際にとどろく轟音です。これが敵の精神を打撃して敵を撤退へと導きます。鉄砲が登場した後の世界史は西欧列強の時代であり、多くの地域がヨーロッパの植民地と化していきます。

鉄砲の威力はすさまじく、アメリカ大陸やアフリカ、オセアニアのあたりなどは数で圧倒していたにもかかわらず、西欧列強の屈して植民地とされてしまいます。 ですが、火薬兵器を取り入れるだけの文化的下地を持ち合わせていた国(日本のような)は火薬兵器を取り入れ、西欧諸国に隷属する危機を乗り切ります。

結局、西欧がこれらの国を打ち破れるのは火薬に続き、世界史に影響を与えたとされる第二の存在、外燃機関の登場を待つことになります。

この結果、白人の植民地や支配化におかれていない国家は日本、タイ、トルコの三カ国のみとなるのですが、まぁこれは関係ない話ですね。

戦国時代などは鉄砲にとっていまだ黎明期にあたる時期であり、非常に弱点が多く使いにくい存在でした。三十秒に一発程度しか弾丸を放てない上、風が吹くと火薬が飛ばされて射撃できず、雨が降ると火薬がしけって射撃できません。

技術が未熟で火薬の力を生かしきれずに火薬の爆発力は無駄遣いされ、弾丸の形状が円形であるために射程、威力ともども後の鉄砲と比べると、どうしようもない存在でした。

しかし、これだけ弱点まみれであるにもかかわらず、その強力な威力から火縄銃は時代を変える力を発揮します。戦国大名はこれを積極的に自分の兵士たちに使用させ、鉄砲の使い方が戦いの結果を左右するようにさえなっていきます。

鉄砲の威力を数字で見てみると、弓の30倍、クロスボウの15倍の威力を誇ります。しかし、実際のところそこまで派手な活躍はできませんでした。 弾丸が円形であるために空気抵抗に弱く、遠距離では装甲を貫通できないことも珍しくなかったからです。

2ミリの装甲を持つ鉄板にたいして射撃した場合、火縄銃はせいぜい矢より四倍の貫通力を見せるに留まります。これは矢の先端がとがっていて威力を集中できるのに対し、円形の弾丸は威力を無駄遣いしていることが原因です。

さんざん引き合いに出した本の実験では2ミリの鉄板を完全貫通できなかったなど、時と場合によっては弾丸が鎧にはじかれることがあったことを見て取れます。特に4ミリに近い装甲を誇る南蛮胴は鉄砲にとっては厄介な存在だったことでしょう。

ほかに、どの角度から攻撃されたかでも防御力には影響がでるようで、南蛮胴が前方に対して斜めの装甲が向けられるようになっているのも、それが原因です。

第二次大戦期の戦車でも注目された傾斜装甲とかいうやつで、同じ厚みでも正面からと斜めからでは厚みが異なるという原理が存在し、斜め45度から射撃されたばあい、その装甲は実質的に1.5倍近くになるそうです。

ウィンナーを包丁で切るとき、普通に切るのと斜めに切るのではどちらが切断面が大きくなるでしょうか? 斜めに切ったときですよね、それと同じ現象が鎧でも起きていると考えてください。

さらに鉄板には、厚みを増すごとに防御力は純粋な足し算以上に上昇して行くという原理があります。つまり、4ミリ装甲1枚と2ミリ装甲2枚では前者の方が強固なのです。南蛮胴の強固さがより理解できると思います。

ネットに転がっていた引用部分を読んだので、手元に資料はないのですが、参考資料をここに紹介しておきます。

『Williams,Alan:The Knight and the Blast Furnace:A History of the Metallurgy of  Armour in the Middle Ages & Early Modern Period:Brill:2002:90-04-12498-5』


さて、火縄銃の話はまだまだ続きます。世の中には火縄銃で貫通できない鎧(人間が着て動ける重量の)はないと断言する方もいるようです。鉄砲の威力は火薬の量で底上げすることができるため、南蛮胴でも火薬を増やせば貫通できるというものです。

おそらくは事実でしょう。しかし、実行は困難を極めると思います。まず、大量の火薬を使用するとなると、通常の火縄銃がその爆発に耐えられるかという話になります。

それに、火薬を増やすだけですむなら数十倍の火薬をつめれば火縄銃でも城壁を破壊できるだけの弾丸を発射できることになります。

では、なぜ大砲は存在したのでしょうか? おそらく、発射できる弾丸の大きさと銃身の耐久力に問題があるからこそ、大砲は存在しているのだと思います。

他にも火薬による威力の補正には限界があることがわかります。実際のところ、弾丸に威力は以下の計算で数値化することが可能です。

『J(ジュール)=初速×初速×弾頭重量(g)÷2000』

これが何を意味するかというと、火薬の増力による弾丸速度の向上は非常に有効ですが、同時に弾丸の重量を増やせば相乗効果が期待できるということです。実際、現代戦では5.56mmのNATO弾と7.62mmのNATO弾とでは重量と威力が倍近く違ったりします。

防弾チョッキが優秀になってきたことから重量のある弾丸を歩兵に持たせたいが、弾丸が重いと携行できる弾数に影響が出るため、どちらが優れていると決められないのが現状だそうです。

5.56mmのNATO弾は小口径高速弾という種類の弾丸で、速度を上げれば威力も上がるという原理を見事に利用した弾丸です。

このように、火薬を増やして威力をあげるというのは決して間違った考えではありません。しかし、実際には銃身の耐久力や弾丸重量による威力の影響などもあり、戦国末期の城攻めでは大砲が活躍したという文献も多く存在しますし、特大火縄銃である大鉄砲などという存在もあります。

さらに通常の火縄銃でも弾丸の大きさごとに1勺筒から10勺筒と大きさわけされていたようですので、弾丸重量が威力に与える影響は当時から知られていたわけです。

ちなみに重量が重いために武士が主に使った10勺筒(侍筒と呼ばれたとか呼ばれなかったとか)の威力は現在各国に使用されているアサルトライフルに匹敵する破壊力があります。

ただ、ジュールが高いだけで鎧に対する破壊力を比べたら確実に見劣りするでしょう。そのようなわけで火縄銃は必ずしも無敵ではなく、むしろ大きな弱点を抱えた兵器でした。しかし、その抜群の威力から、旧時代の兵器はやがてそのほとんどが一掃されるという結果を招くことになるのです。



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