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三段撃ち


日本史どころか世界史を塗り替えた強力な兵器である鉄砲。だいたい三十秒に一発程度しか撃てない使い勝手の悪い兵器でしたが、その威力は抜群で射撃時の音には誰もが恐怖を抱いたものと思われます。今回とりあげる鉄砲戦術は、かの有名な三段撃ちです。

三段撃ち

馬防柵の後ろに隠れた信長の鉄砲隊が射撃速度の遅い鉄砲の弱点を補うべく採用したこの戦術は以下のようなものです。

お互いの射撃と装填の時間をずらし、常に鉄砲を撃てる状況を作ります。こうすれば敵に付け入る隙を与えずに済みます。信長は、これを三人一組で行わせ、十秒に一発の射撃を可能にしました。三千人の鉄砲隊を、千ずつにわけて一斉射撃させたとかなんとか。

誰もが知るこの戦術ですが、最近はこれが否定されつつあります。三段撃ち戦術が実際に可能であったかどうか、一斉射撃に意味はあるのか、そもそも三千もの鉄砲があったのか、などです。手厳しいですね。

それでは早速、いつもどおり検証してみるとしましょう。まず三千の鉄砲についてですが、これは確かにありえないかも知れません。そのような記述が江戸時代以降です。とりあえず、なくはなかった可能性だけあげておきます。

信頼できる信長公記では信長配下の五奉行に約千の鉄砲を配備したとあり、敵の後方に機動した別働隊が五百の鉄砲を所持しています。その他、信長の援軍としてやってきた連中の鉄砲の数には触れていないため、合計数は千五百プラスアルファと言ったところでしょう。

その他連中の鉄砲が千五百を超えていれば三千あったことになります。しかし、別働隊が五百持っていってしまったので、その他の連中が合計で二千持っていないと三千の鉄砲で迎撃できない計算となります。

ですが、よく考えてみましょう。信長がこの戦いで使用した部隊は三万六千です。もし鉄砲が三千あったとすると、全部隊の内、十二分の一しか鉄砲を装備していなかったことになります。鉄砲を重視した信長とは思えないほどの、装備率の低さです。

これを考慮するとするなら、三千は逆に少なすぎるんじゃないかとさえ思えてきます。一説によると織田軍は一万八千しかいなかったとする資料もあるので、それなら三千は妥当に思えます。全軍の役七分の一が装備しているなら、そこそこの装備率です。この時代なら、ですが。

次に一斉射撃に関して考えてみましょう。敵に対し一斉射撃をすることで面を制圧する弾幕戦術はヨーロッパにおいて開発されたもので、日本では使用されなかったとされています。 つまり、一斉射撃は嘘っぱちである可能性が高いです。

その上、火縄銃は火縄に火がついていて危ないので密集射撃とかは危険で出来なかったようです。ヨーロッパで弾幕射撃が流行るのは、火打ち石の火花で引火させるフリントロック式の銃の誕生以降です。

それに広すぎる戦場において千もの鉄砲を同時射撃しても無駄弾も多いでしょうから、現実てきではありません。もし一斉射撃していたとするなら、それは一部の連中のみであり、密集した弾幕射撃ではありえなかったと結論付けておきます。


では、入れ替わり立ち代りのあたりはどうでしょう。そんな行動を取ったら危ないから装填した火縄銃を手渡して速射したとかいろいろ言われています。

実際にはどうだったのでしょうか。結論から言うと、可能です。ただし、柵の後ろで右往左往する交代射撃は難しいでしょうが。

まず、射撃に時間のかかる武器の運用の歴史を見ていきましょう。じつは速射できない兵器を入れ替わり立ち代り打つ戦術は鉄砲の誕生前から存在しています。それは、弩やクロスボウと呼ばれる武器の運用から知ることができます。

中国でもヨーロッパでも使われたクロスボウは発射速度が鉄砲と似たようなものだったので、一斉射撃をせずに順番に撃ち、お互いの隙を補い合ったと多くの文献が語っています。中国でも、このクロスボウ交代射撃が軍事書に残されているくらいなのです。

これが鉄砲に応用されなかったといったら嘘でしょう。実は、信長以外にもこの鉄砲交代射撃を使用した連中が存在しています。そして、彼らはそれを平地で使用しました。

ヨーロッパの名将は『カウンター・マーチ』と呼ばれる、交代射撃移動で射撃と移動を同時に行いました。戦国武将の島津も『車撃ち』と呼ばれる移動射撃戦術を使っています。ただ、これはどちらも平地で使用するもので、拠点に籠って採用する戦術ではありませんでした。 

このように、射撃間隔を埋める相互射撃は洋の東西を問わずに紀元前から行われてきました。どのような方法にしろ相互射撃はあったと結論を出したいと思います。 信長の三段撃ちは、おそらく鉄砲を交換しながら一人の射手が速射を行っていたというのが現実的であるように考えられます。


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