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地域ごとに見る火縄銃の特徴


さて、ここまで戦国時代における日本各地域の火縄銃を見てきました。長さ、口径、重さなど多種様々な火縄銃があることが理解出来たものと思われます。ここまで調べていく内に、私はある傾向を見つけることに成功しました。

地域ごとに見る火縄銃の特徴

地域によって火縄銃に求められた性能には違いがあり、運用目的の違いがそれぞれ見受けられることがわかったのです。資料に限界があり、必ずしも正しいと言い切ることはできませんが、覚書がてらにここで考察することにします。

とりあえず、それぞれ地域ごとの火縄銃の特徴を並べて行きたいと思います。地域と言っても尾張や遠江など一国ごとではなく、東北や九州など広い地域ごとになります。では、見ていきましょう。



『銃の持つ性質』

まず、銃の性能についてのおさらいをしていこうと思います。銃はいろいろな性質を持たされていますが、それぞれに意味があります。一つずつ、細かく説明します。

【長さ】

銃身の長い銃は射程と威力が優れるようになります。筒が長いので、火薬の爆発から得られる運動エネルギーを、弾丸が長時間、受け続けることができるからです。代わりに、長い銃は使い勝手が悪く、重くなります。短いと使い回しがよく、軽いので動きも俊敏になります。



【重量】

重量は兵器として重要な要素の一つです。重い武器は使いにくいですが、その分だけ優秀な能力を付与されます。鉄砲という兵器はこの重量がとくに重要です。

銃身を長くして性能を上げようとすると重くなります。火薬の爆発に耐えられるように銃身を厚くすると重くなります。しかし、重量が増すことは性能が向上することにつながるのです。

ちなみに、日本の銃は細く長く重いか、太く短く重いかの二極化的傾向を持つことが多いそうです。太く、長く、重いものはあまり見ません。やはり運用に応じて兵器は作られるのでしょう。ちなみに、狭間筒など拠点防御用の物はそのような傾向を持つので、適材適所だったのでしょう。



【口径】

口径の大きい銃は威力が上がります。破壊力の計算式は重量×速度の二乗です。まず火薬量が重要になりますが、そのうち限界が生じるので、どうしても弾丸重量は必要な要素となります。

口径の小さい銃は威力が小さいので、銃身を長くしてごまかすことが多いようです。逆に、口径の大きい銃は短いのが多いです。要するに、威力が確保できればいいみたいな思想が見えてきます。やはり鎧の貫通力は重要だったのでしょう。

実際、足軽が用いる火縄銃は口径が小さく長いものか、口径が大きく短いものが多いです。威力を確保するには、どちらかにかたよらざるを得ないということでしょう。

覚えておいて欲しいのは、口径の大きい銃の弾丸は重いということです。これは射程距離に影響を与えます。つまり、口径の小さい弾丸は大きい弾丸より遠くに行くということです。重い物より軽い物の方が、同じエネルギーでも遠くまで届くということです。重要です。



『地域別火縄銃』

さて、基本をおさらいしたところで先に進みましょう。まずは、おおざっぱに使用傾向リストを作成してみます。



中央日本周辺: 長さ→130cm前後 重量→2〜5kg 口径→2〜4匁

瀬戸内海付近: 長さ→140cm前後 重量→2〜6kg 口径→2〜3匁

九州地方付近: 長さ→100cm前後 重量→4〜6kg 口径→5〜6匁

東北地方付近: 長さ→110cm前後 重量→4〜10kg 口径→5〜10匁


まぁ、こんな感じでしょうか。もちろん、これが全てではありませんし、資料の限界もあるので確実とは言い切れません。あくまで調べている内に見つけ出した傾向ってやつですね。

今回の考察はこの抽出情報が正しいことを前提に始めます。




【中央日本周辺】

本州のど真ん中付近。関東・甲信越・中部のあたりというとわかりやすいでしょうか。織田、武田、今川、北条などが気を吐いていた地域です。この辺りで使用された火縄銃は標準サイズであることが多いように思われます。

中央で使用されたのは、特に目立った特徴のない標準的な銃です。銃身は長く、口径は小さく、3キロ前後が普通だったでしょう。射程、威力も一般的ですが、重装甲の侍相手だと、少しきつかったかもしれません。

とは言え、そこまで重い鎧なら動きも遅くてねらいやすかったでしょうし、近距離からの射撃なら余裕で貫通できた可能性は否定できません。困ったら侍さんの持つ侍筒に任せればいいだけですし。

中央日本の鉄砲が標準サイズなのは、可能な限り他地域での運用を強いられたからだと思います。地上戦はもちろんのこと、籠城戦や海上戦でも、標準サイズの銃は一定の効果をあげます。織田家などは陸戦だけでなく、今川や伊勢、毛利や紀州の水軍とやり合う必要もあったのです。

長いのでやや使いづらくはあったかもしれませんが、重量は重くないので大問題にはならなかったと思われます。さすがは日本を統一した地域の銃と言ったところでしょうか。さしさわりなく、応用力の高さがこの地域の銃の長所であったでしょう。



【瀬戸内海付近】

古来から、瀬戸内海は海賊の多い地域とされてきました。瀬戸内海周辺では、もちろん地上戦も行われましたが、船戦が多かったことでしょう。ここ、非常に重要です。テストには出ませんが。

船での戦いでは、相手は基本的に遠くにいます。遠くの敵を狙うのに必要な銃の条件は、長い銃身と小さな口径です。銃身が長ければ、火薬のエネルギーを効率よく使えます。口径が小さければ、弾丸が軽いので弾は遠くまで届きます。

もう、おわかりかと思われますが、海戦の多い瀬戸内海付近では長く細い銃が好まれます。優秀な海軍を持つ家ほど、その比重は増すでしょう。水軍で有名な毛利や、四国東部の阿波などもこんな感じの銃を持っています。

意外なことに、この特徴が一番際立っているのが雑賀集のいる紀州のあたりです。雑賀の銃は他のものと比べても長く、細く、軽くが徹底しています。よほど遠距離からの狙撃を好んだのでしょう。

生き残りが大切な鉄砲傭兵としては、アウトレンジから敵を徹底的に狙撃したいところだったのでしょうか。この手の銃は海上でも大活躍ですが、狙撃や籠城でも一定の効果が期待できるので、もちろんのこと地上戦でも運用可能です。

ただし、口径の問題から、敵兵が重装甲だと少し困ることになります。近距離ならともかく、ある程度離れた距離で動く重装甲の侍の撃破は難しいものであったことは想像に難くありません。ちなみに、足軽の装甲なら余裕で貫通出来たものと思われます。敵の大半が足軽なので、致命的ではなかったと思われます。



【九州地方付近】

九州男児が暴れまわった、戦国最強地域の一つがこの九州です。貿易に有利な地であることから、九州は非常に鉄砲の運用が盛んでした。九州の鉄砲は短く、重く、口径が大きいという特徴があります。

九州ではあまり船戦がなかったのでしょうか。海洋国というイメージが強いのですが、瀬戸内海とは正反対の特徴を持っているので、弾丸による船体破壊や防御兵器対策を好んだということでしょうか、わかりません。射程距離よりも破壊力を重視したこの銃は、しかし九州武将の戦績から決して侮れないものであったことが分かってきます。

銃の長さが短いのも長所の一つでした。射程距離こそ落ちるものの、持ち運びに便利で集団運用にはもっていこいでした。銃身の短さによる威力低下という弱点は、口径の大きさで補えます。九州の銃は、日本でも特に短い物ですが、射程の短さはあまり問題にされていなかったようですね。



【東北地方付近】

伊達政宗が暴れまわり、ちょこっと上杉が存在感を示しているのがこの東北地方です。貿易に不利であったため、銃の到来が遅く、地域統合が遅れたこの地方ですが、面白い銃の特徴を持っています。短く、重く、大口径。少し九州に近いですね。

九州と比べると、東北の銃はやや長く、重いです。そして、何よりも口径が大きい。東北は妙に大口径の銃が目立つ地域です。中でも、上杉家は比較的十匁筒を好んでいた様子です。馬上筒が好きな伊達は、五匁馬上筒がよく見られる様子がうかがえます。

つまり、東北の銃は射程を少し考慮にいれながらも、破壊力を重視したものであることがわかっています。重さのために限りなく使いにくいのですが、銃身を短くして少しはカバーしていた模様。

まぁ、東北は当時のド田舎なので問題ないのでしょう。田舎の兵は強いというのは、世界史共通の傾向です。雪と山にもまれた剽悍な東北兵の腕力なら、重量級の銃を余裕で運用できたのでしょう。逆に京都周辺の軟弱兵たちは、軽くて長い銃を使っているのが対照的ですね。

射程より威力を重視したのは、九州同様、あまり水軍が重視されなかったからでしょう。地上戦なら相手の鎧や防御施設破壊の方が優位に働きます。銃身の短さは口径の大きさで補えます。九州と東北は、地上戦重視の鉄砲運用だったようです。




『結局、どこの銃が最強なのか』

断言できません。戦闘場所によって最適な銃はことなるとだけ言っておきましょう。詳しくは後述しますが、射程と威力と運用上の利便性は基本的に反比例します。最高の兵器は存在しないので、どこかで兼ね合いが必要です。

例えば、大砲は威力と射程において最強ですが、持って歩くことができず、発射に時間がかかります。動かすだけでも、大人数が必要です。逆に、短筒は一分間に四発くらい発射できます。しかし、命中射程は五メートル程度で威力も小さいです。

つまり、適材適所です。上下は基本的にありません。基本的にと言ったのは、少しはあるということです。具体的には、口径の大きさだけは覆しようのない上下関係があります。

総合的な面から言うと、口径の大きい銃は小さい銃に勝ります。他の全ての要素は反比例関係にありますが、ただ一点だけ大口径銃は小口径銃を超える部分があります。相手より口径が大きい時のみ、生きてくる長所です。

戦場では、逃げる敵は物資を置いていくことがよくあります。中でも、銃弾を奪い取れることは非常に大きな利益を生みます。が、ここで銃の口径について問題が出てきます。奪った銃弾の口径が自分の銃より大きいと、使用することができないのです。

逆に、こちらの口径が大きいなら、奪った相手の銃弾をそのまま使用することが可能です。このように、口径の大きさが優位を生むことがあります。ナポレオン戦争においても、口径の大きさは兵器の評価を左右しました。

細く、長く、口径の小さいフランスのシャルルヴィルは優秀な銃でした。正反対の性能を持つブラウンベスも、もちろん優秀です。両銃の間に、戦闘能力としての差は大きくありません。ただ、ブラウンベスは口径が大きい事が優れているとされていたのは事実です。

当時、世界の工場であったイギリスはブラウンベスを大量生産し、フランスの敵国に輸出しまくりました。口径の大きいブラウンベスはそれらの国の銃弾を発射できたため、運用面で非常にすぐれていたのです。シャルルヴィルには、同じマネができませんでした。

そのため、物資の効率的な運用という意味では、口径の大きさは重要です。そこには、戦闘力では測れない利便性が存在していたからです。

口径の小さい銃の名誉のために言っておくと、奪い取った弾丸というのはあまり優秀なものではありませんでした。銃の口径と弾の大きさの差は小さければ小さいほどよかったのです。隙間が大きいと、そこから爆発のエネルギーが逃げます。そのため、戦国時代の銃と弾の隙間は2〜3ミリ程度です。

隙間が大きいとエネルギーが逃げる、小さいと入れにくいので、どうしても限界は存在していました。そして、奪った敵の弾は口径が違うので、威力、命中率ともに低下したでしょう。それでも、不足しがちな弾丸を劣悪でも補充できることの意味は大きいとは思います。



『総括』

以上のことからまとめをしてみましょう。中央は標準、瀬戸内海は長く細く軽い、東北と九州は短く重い。まぁ、こんな感じでしょうか。上でも書きましたが、地域ごとに銃の傾向が違うには理由があります。もう一度まとめてみます。

まず、戦域が広く、海戦を行う事もあった中央では銃のサイズが必然的に標準サイズになります。戦域に特化できないかわりに、あらゆる戦場に対応できるからです。信長や秀吉の戦闘範囲の広さは、ここに来る人間なら誰しもがわかるものと思われます。

瀬戸内海周辺は海戦の頻度が多く、銃は長く、細く、軽いです。船の上では味方が邪魔になったり枝に引っかかったりしないので、長い銃の運用が容易なのです。弾が遠くに届くように口径は小さめ。でも、威力を出すために筒は長め。

ただ、このような銃は狙撃に有利ですが、威力には多少問題が出てきます。そのため、ガチンコ・バトルの地上戦では、少し問題が出たでしょう。接近しすぎた重装甲の侍を相手取る場合、短く口径の大きい重い銃の方がはるかに適切です。

そして、地上戦の多い九州と東北。接近戦での優位性確立が重要だったこの地域は、口径の大きい、重く短い銃が積極的に運用されました。当然、射程は短くなりますが、遠距離にいる重装甲の侍を撃ち殺すことはどちらにしろ難しいので、むしろあきらめていたのでしょう。

やはり勝負は接近戦だったということでしょうか。九州と東北の火縄銃を見ていると、思わずそんなことを考えてしまいます。

さて、ここまで読んだ人は、こう思ったかもしれません。「でも、火縄銃で撃つべき大半の兵士は、1mm鉄板装甲の足軽だよな」。もちろん、そうです。しかし、接近してきた重装甲の侍を撃ち殺すことができるか否かは、非常に重要となってきます。

雑兵物語に長柄槍の運用について語られる部分があります。そこの記述によると、長柄槍を持つ足軽より先に、まず短い持槍を持つ侍が最前線を突っ切るとの描写があります。つまり、突撃部隊の缶切り役として、重装甲の侍が運用されていたわけです。

重装甲の侍の突撃を防げないと大変なことになります。後から突っ込んでくる大量の長柄槍兵によって、戦線が崩壊することになるからです。そのため、近距離まで突っ込んできた侍を確実に射殺することは、非常に重要になってくるのです。

この時、射程はいりません。必要なのは破壊力。その点、口径の大きい銃は有利となります。威力は重量×速度の二乗で決まります。2mmを超える装甲の鎧に守られた侍を確実に(重要、手負いでも突っ込むことは可能です)撃ち殺したいのであれば、九州や東北の銃はまさにうってつけなのです。

もちろん、通常戦闘では雑兵相手となるので、口径は2〜3匁で十分すぎます。しかし、相手が軽装歩兵である足軽ではなく、重装歩兵の侍であるなら、口径は大きければ大きいほどいいのです。そして、接近戦なら銃身は短い方が使いやすいです。

戦国武将は、自分たちにとって最良の銃を選択しました。戦域の広い中央では標準サイズ、瀬戸内海近辺は長射程、東北と九州は威力重視。このようにして、戦国武将は銃を適切に運用し、戦いをくぐりぬけていったのでした。



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