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弓と鉄砲、射程距離の関係


戦国時代のみならず、鉄砲が共存する時代についての文献を読むとき、いつも混乱することがあります。それは鉄砲の射程についてです。威力の面で鉄砲をけなす文章を書く人間は私以外に見たことがありませんが、射程距離については文献ごとに違うことが多いのです。

弓と鉄砲、射程距離の関係

いわく、その射程は五百・二百・五十・二十・五、などなど。相手の白目が見える距離でないと当たらないとか、五十メートル先の目標を狙うと一メートル横にぶれるから当たらないとか、資料ごとに言ってることがだいぶ違うんですよね。

少し落ち着いて考えて見ましょう。全ての文献が言っていることは正しいです。しかし、それは一面しか捉えていないからと言ってしまえるでしょう。総合的に見た場合、多くの資料は間違ったことを言っていません。

では、まず射程距離から。資料によっては二百メートルの射程しかない鉄砲に比べて弓は四百メートル近くまで飛ぶ。だから弓を使っていた方がマシな戦闘ができたはずと言うものもあります。爆音による威嚇効果がそれほどすさまじいという資料もあります。

しかし、本当に鉄砲の射程は短いのでしょうか。実は、戦国時代において、鉄砲は部隊の一番前に配置されます。その後ろに弓です。これは、射程距離において鉄砲が一番勝っていたという証拠ではないでしょうか。では、なぜ鉄砲の射程が二百メートルなのか。その説明のためには、まず以下の数字をごらんになってください。

『弓』

殺傷射程  30メートル
有効射程  80メートル
最大射程 400メートル


『鉄砲』

殺傷射程  50メートル
有効射程 200メートル
最大射程 500メートル

弓と鉄砲の射程距離一覧です。殺傷射程が鎧を着た相手でも高確率で殺害できる距離。有効射程が命中すれば殺傷できる確率が高い距離。最大射程が当たっても致命傷に達するかどうか怪しい、届くだけの距離です。

さぁ、何かいろいろと見えてきました。そうです、この射程がゴッチャになっていたのです。鉄砲二百メートル、弓四百メートル説は同じ射程領域ではなく最大射程と有効射程が混ざっていたんですね。それなら鉄砲の射程が短いのも納得です。

実際、当時の鉄砲は弾丸が円形であるために空気抵抗が大きく、飛距離には大きな影響が出ます。しかし、銃弾が持つ運動エネルギーは人力で放たれる矢の二十倍です。空気抵抗程度では銃弾のエネルギーは殺しきれません。

結果、最大射程の差は四百と五百で鉄砲が有利です。有効射程の差は八十と二百であり、飛距離が短いほど鉄砲の運動エネルギーが残り続けることの証明のような数字です。そして、殺傷距離が三十と五十。これもやはり火薬の力が人力を大きく上回る証明と言えましょう。

さて、これで射程に関してだけ言えば、なぜ鉄砲が陣形の最先端に配置されるかが理解できたはずです。戦国ゲームにおいて、鉄砲以外が遠距離攻撃できないシステムのゲームがあることにも納得がいったでしょう。

しかし、まだ全てを語りつくしてはいません。鉄砲の射程が五メートルくらいしかないという資料は何なのか。時代が違うとは言え、ナポレオン戦争の時代において、射撃は相手の白目が見えるくらいの距離でやれと言う証言が残るのはなぜなのか。ここでもやはり空気抵抗がネックとなります。

まず、円形の玉は空気抵抗で大きく軌道がブレるということを覚えておいてください。テストに出ます。そして、これがために鉄砲は異様なまでの命中率の低さを誇ります。それが鉄砲射程過小評価につながってくるのです。

五十メートル先の敵を狙うに際し、円形の弾丸は空気抵抗で大きくブレます。具体的に言うと一メートル近くブレることさえあります。これでどう命中させろと言うのでしょう。当たるわけがありません。人間の身長は縦に一メートル半強、横に七十センチ強程度です。弾丸が横に突き抜けてしまいます。

しかし、それはあくまで一対一の話。敵は横に並んで陣形を組んでいます。さぁ、敵の塊に向かって射撃しましょう。一メートルずれても隣の兵に当たりますので結果オーライ。集団戦だと、少しぐらいの弾のズレは問題にならないんです。

そして、達人になると風の流れでどれくらい弾丸がブレるかわかります。現代の狙撃主も二人一組で班を組み、片方が風速を計算し、狙撃主に伝えるなどの役割分担をしています。達人は空気抵抗まで計算に入れて狙撃します。そして、鉄砲が登場したことで歴史にある兵科が姿を現すにいたるのです。

その兵科は狙撃兵です。弓では鎧をまとう敵将を遠くから狙撃することは不可能でした。可能ではありましたが、遠くから敵将を射ようとしても、重装備で固めた敵将に百メートル以上の距離から射た矢ではそう簡単に致命傷を与えられません。有効射程を超えてしまいますし、近距離なら可能な装甲貫通も不可能です。

しかし、鉄砲なら違います。空気抵抗を計算に入れて対象に命中させれば二百メートルの距離から敵将を討ち取れます。そのため、鉄砲の登場以降、狙撃兵が登場し、要人暗殺に活躍します。織田信長も鉄砲を持つ狙撃主に命を狙われた経験がありました。

さて、最後に五メートル射程と白目話。これは戦国時代ではありえないシチュエーションになり、しかも武器は火縄銃ではなく火打ち石式のフリントロック・マスケットの話になります。以下、マスケット銃で通します。

マスケットは火縄ではなく、火打ち石がぶつかるときに飛び散る火花で火薬を引火させる銃です。火打ちの衝撃で手元がブレ、命中率は格段に低下しますが、常に火種を用意しなくても射撃が出来る上、火縄がないので安全であり密集陣形を作れるという大きな利点があります。

密集陣形を作ったマスケット銃兵は同じ方向に向かって同時に射撃します。点ではなく面で敵を圧倒する弾幕射撃戦術です。銃弾の壁を瞬間的に生み出す弾幕戦術は、面で敵を征圧することが可能です。しかし、狙いなどつけずに射撃するので、命中率は最悪です。

そこで出てくる数字が五メートル、言葉が白目です。つまり、弾幕射撃はそこまで命中率の悪い力押し戦術なのです。しかし、これがナポレオン戦争の正当な戦い方であり、ナポレオンはこの戦術で欧州の地図を塗り替えました。火縄銃に比べて命中率の悪いマスケット銃と弾幕射撃が、この低評価をつくったのです。

実際の戦場において、百〜二百メートル程度の距離で行われる遠距離射撃戦は牽制の意味を持つ程度のものでした。そのため、命中する攻撃の多くは流れ弾や流れ矢です。ではこの時、敵の盾や鎧に簡単にはじかれてしまう矢と、命中すれば一撃死しかねない鉄砲は、どちらが恐ろしいでしょうか。

まぐれあたり前提なら圧倒的に鉄砲です。というか、実戦において矢や鉄砲の命中率は百分の一以下どころか千分の一以下です。ナポレオン戦争でも、一回の会戦で百万発弾丸を放って敵の死傷者が三百程度だったことすらありました。基本、当たらないものなのです。数を撃つから当たるのです。

さて、どんどん鉄砲のすごさが理解できてきたことだと思います。これでもう、鉄砲の射程距離が弓より長いゲームに出会っても混乱することはないと思います。

時代を塗り替えた鉄砲は射程も威力もすごかった。でも、精密射撃は弓の方がすごいかも。この言葉で、このカテゴリーの考察を終えようと思います。



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