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騎兵戦術


戦場における馬の有効性は非常に高く、火薬の時代が訪れるまで騎兵は戦場において最強の兵科でした。これは日本においても変わらず、平地の多い関東や良馬の産地(らしい)東北では優秀な騎兵が多かったそうです。

騎兵戦術

特に、関東は鎌倉幕府誕生を決定付けた、巧みな騎兵戦術を操る坂東武者と呼ばれる優秀な騎兵を多く輩出しました。

騎馬軍団で有名な武田家より北条家の方が多くの騎兵を使用していたことからも、平地の多い関東における騎兵の有効性は確認できます。

さて、騎兵の役割は大きく分けて二つ存在します。騎兵の最大の特徴である速度を活かした『機動』、そして巨体と体重と速度を持って敵を撃破する『突撃』です。

地味な役割としては指揮官を馬に乗せて高い視点を持たせ俯瞰的に戦場を把握させること。他には大将が高い位置にいるために歩兵たちが指示を仰ぐべき対象を見つけやすいなどという効果もあります。合戦屏風においても歩兵を指揮する騎兵の姿を見ることが出来ますし、突撃する騎兵に追従する歩兵の姿も確認できます。

さて、最初に説明した『機動』に関して解説をしましょう。騎兵の最大の武器は速度であり、これは部隊を騎兵のみに編成してのみ初めて使用可能になるものです。歴史上、騎兵の破壊力を使いこなした武将は多かったのですが、機動力を使いこなした武将は一握りしか存在しませんでした。

とはいえ、騎兵のみで行動する遊牧民族は普通に機動力を最大の武器にしており、今から名前を挙げる天才は農耕国家の天才たちです。歩兵を馬に乗せて追撃速度を高めて宿敵ダレイオスを追撃させたマケドニア王国のアレクサンドロス三世が、まず第一に挙げられるでしょう。

他には、歩兵を引き連れていては追いつけないと判断し、騎兵五千のみを率いて四倍の敵を撃破した三国志の英雄、曹操といったところでしょうか。

まぁ、探せばもうちょっとくらいいそうですが、全員ピックアップするのも何なのでこれくらいにしておきます。さて、ここからが本番です。騎兵後進国であった日本ですが、決して騎兵が用いられなかったわけではありません。

世界史においてすら例を見ない奇跡の戦術として、少数騎兵における迂回機動を行った天才が日本にもいました。それがかの有名な源義経です。彼は七十の騎兵を率いて敵の背後に回りこみ、敵を混乱の極地に落としいれ相対していた味方に勝利をもたらしました。これほどの少数を率いながらそれが勝負の決勝点を取得した戦いは他に存在しません。


さて、それでは戦国時代に話を戻しましょう。実を言うと、戦国時代において騎兵を有効活用したと言う話は正直聞きません。戦国時代が騎兵にとって非常に戦いづらかった時期であり、長柄槍にも鉄砲にも太刀打ちできなかったという不利な条件に比べ、平地が少ない日本では騎兵の存在価値は他国の数分の一でした。

ルイス・フロイスが自分の国でも竜騎兵と呼ばれる降りて戦う騎兵がいるにもかかわらず「オレらの騎兵は馬に乗って戦うけどここの連中は降りて戦う」などと言ったのはこれと無関係ではないはずです。騎兵に乗って戦わなかったと平然と言ってのける人間が後を絶たないという現象が起こるくらいに騎兵の活躍を伝える文章は非常に少ないです。

戦国時代において騎兵は歩兵と共同して動くのが基本で、騎兵のみの突撃というのはさほど多くなかったように思われます。とは言え、決してなかったのではなく、文献には騎兵戦術の名が記されているので、それを紹介させていただこうと思います。


騎兵戦術で名前が残っているものは三つ存在し、『乗り切り』『乗り崩し』『乗り込み』の三つです。

『乗り切り』は合戦の最中、味方と交戦する敵が浮き足立ったあたりでトドメの一撃として騎兵の小部隊を突撃させて敵を敗走させる戦術です。

戦闘中で敵が混乱していれば迎撃される心配も少なく、槍ふすまによって対処される恐れもありません。おそらく最も使いやすく正しい騎兵戦術でしょう。『乗り崩し』は逆に、敵が対処できない隙を突いて騎兵を突入させ、相手をかく乱させ、そこに歩兵を突入させる戦術です。

いずれも騎兵と歩兵の共同作戦が前提であり、弱点の多い騎兵を単独で用いることはあまりやらなかったのではないかと思います。最後の『乗り込み』は本格的に戦端が開かれる前、敵の陣がまだしっかりと組まれていないと思われるところに騎馬武者のみで物見を立てるという戦術です。

そのまま敵中に突入し、敵を混乱させた後に撤退。敵の混乱が大きければ本隊も投入して先端を開くなどが可能で、前哨戦を優位に進めるために騎兵の機動力を活かした戦術です。戦国時代において騎兵の価値は前の時代に比べて低いものではありましたが、決して活躍の場がなかったわけではないことは明らかです。

これらの事実によって、日本在来馬たちに正当なる地位が与えられることを祈るばかりです。



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